「かいちょうな話」 (9月号)
TEAM GREX会長
       藤沢 武  

 「水母」、「海月」。  語感からして癒し系のクラゲは、いまや家庭の水槽で飼う時代。
 しかし現実の海は厳しい。おと年、去年と日本海側で怪物クラゲ「越前水母」が異常流入し漁業に甚大な影響を与えた。何しろケタ外れにデカいのだ。直径2m、重さ150kg(最大重量)にも達するし、傘の下に口を囲んで8本の口腕があり吹き流し状にやたらに長い。これが沿岸部を埋め尽くすように日本海側を海流に乗って北上、津軽海峡から潮まかせに南下、関東沖合でも確認された。クラゲの異常発生は10年以上前から懸念され続けている。主に「水クラゲ」だ。直径20cm位。「四つ目クラゲ」とも云われる。宇和海から広島沿岸にかけて異常発生し底引き網がクラゲの重さで切れたり、魚は姿を消し出漁を見合わせ漁獲量が半減した。四年前、愛媛県宇和海に湧いた水クラゲは海面を覆いつくし航空写真による分析では約9000トンと信じられない大群だったと云う。群れが去った後、この海域では餌のプランクトンだけではなく、魚も大幅に減った。ある原子力発電所では、取水口に来襲した300トン近いクラゲがはりついて発電用の冷却水が取れず、通常の発電量を維持できなくなった。イワシの漁獲量が激減した原因の一つがクラゲの爆発的増加だという。餌は共に小型動物プランクトン。クラゲはイワシの餌を奪う、卵や稚魚も食べてしまう、触手を使い触れるモノをどんどん体内に取り込む、まるで「イナゴかバッタの大群」が作物を食い尽くす状態なのだという。なぜクラゲがかくも異常に増えたのだろうか。かつてNHKテレビ「クローズアップ現代」で特集されたが、クラゲの生態は実はよくわかっていないらしい。おおむね夏場に生まれ「ポリプ」と呼ばれる幼生の状態で岸壁などに張り付く。これが細胞分裂して春先にクラゲになる。そして夏に卵を産み、水温が下がる晩秋に一生を終える。水クラゲの場合、一匹が生む卵の数はナント100万個以上。群れをつくる性質はわかっているが、どのように行動するか多くの部分は謎だという。増加の要因の一つは海岸線での「コンクリート護岸の増加」もある。クラゲのポリプは緩やかな砂浜などには吸着できず、岩やコンクリートの固い面を好む。切り立った人工護岸が日本中のいたるところにあると云うことは、人間がクラゲに最高の産卵環境を結果的に作っている事になる。さらに地球温暖化・海水温の上昇が追い打ちをかける。5年前の真冬、広島湾内で大量に越冬している水クラゲが発見された。加えて瀬戸内海沿岸は富栄養化がすすみ、小型の植物プランクトンの大量発生、これを食べる小型動物プランクトン、これを手当たり次第に食べるクラゲ。彼等の異常増加の遠因は人間が作ってしまった「環境」にあると云えるかもしれないのだ。フニャフニャとしていて骨もないくせに今や無敵で強力な天敵もいない。「水母の風むかい」という諺を思いだした。広辞苑によると「いくらあがいてみても、どうにもならない事の例え。ムダなことの例え」だと。そうは云っても撒き餌の下にウジャウジャ寄ってきてごらんなさいアンタ・・・。                                                              
                    
平成16年9月

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