「かいちょうな話」 (11月号)
TEAM GREX会長
       藤沢 武  
 黒潮洗う和歌山県串本は、ALL NIPPON G-1 GURE TOURNAMENTの第2回大会が開催された所。この串本でのお勧めは30年以上の歴史を誇る「串本海中公園」だ。水中展望台の覗き窓ごしに悠々と目の前を回遊する餌付けされた大型グレの群れは実に壮観。釣り師ならば即オキアミを針に付けて放り込みたくなる。40cmオーバーのグレが何十枚と重なる様に悠々と眼前を横切っていく。窓に額をくっつけて動きたくなくなるほど見飽きない。「オトウサンッタラ〜いつまで見てるのよ〜。魚となると子供と一緒なんだから〜」。分厚い鉄製の水中展望室は反響する為、間違いなく他の客は笑う。しかし時々、目の前にグレが止まってオパールの瞳でジィ〜とコチラを見る。見つめていると釣りたい気持ちなど消えて無くなるのは不思議だ。何と言われようが恥ずかしさに耐えてでもず〜と見ていたい。この串本海中公園で研究員をしているのが宇井晋介さん。宇井さんにはNHKラジオ・全国生放送「黒潮の生き物たち」というタイトルで1時間にわたって興味深い話をして頂いた。黒潮洗う串本の海中の面白話が次々にこぼれでて時間のたつのが早い1時間だった。その宇井さんの「バリにまつわる面白話」。刺されるとズキズキ痛むアノ痛さは「たのむからヤメテクレ」という程痛い。アイゴ、バリ、地方によって色々言い方はあるがバリとは小便の意だそうだ。「ユバリをする。イバリをする」などと使う。これはアイゴの皮や内臓に独特のアンモニア臭がある事からついた名前。この小便のバリは本来、動物の小便、特に馬の小便を意味する言葉だったようだ。芭蕉の「奥の細道」の中に「蚤虱(のみしらみ)馬が尿(しと)する枕もと」という句がある。奥の細道の旅は江戸を出立して、今の福島県から宮城県に入り松島、宮城県鳴子町から山形県最上町境の「尿前(しとまえ)の関」にかかる。山道で他に旅人の姿さえ見えず。長旅の疲れはひどい。夕暮れどき「国ざかいを守る封人(ほうじん)」の家を見かけて舎(やどり)を求む。農家だ。所が三日間、風雨荒れて閉じ込められてしまう。蚤がいる虱もいる。寝ている枕もとで馬が小便をする。憂鬱でものすごい風景だ。17文字の中に旅の芭蕉の弱気が見える。病気だったのも知れないと思ってしまう。芭蕉が旅をした頃の農家には家の中に厩があったし「馬が尿する風景」は日常のことなのである。この場面の「尿」は「シトマエノ関」からか、紫式部の時代からの古語からか「シト」と読まれてきた。所が最近発見された芭蕉直筆と見られる資料には「シト」と「バリ」の二つのふりがなをふっている。むしろ「馬がばりする枕もと」と読んだほうがいいのではないかと唱える研究者もいる。今はもう死語になってしまったが、宮城県では厩があったころまで馬の小便を「バリ」と云っていたのである。いかにも馬の小便らしくて勢いがある。 所が先日驚いた。山の手線で大きな声で話す若者達3人「バリ○○じゃ〜ん」等と云っている。よもや馬の小便の話ではあるまい・・・とオジサンは思ったが、若者達は連発だ。「バリいいよね〜」「バリ好きだね〜」と声高に話し続け降りていったのは高田馬場だった。        蚤虱 馬が尿する 枕もと (芭蕉)
平成16年11月